アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草 -4ページ目

アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/170216

 【雨】
 三学期最後の行事である学芸会の準備は、各々の役割によって相当の差が出るのだが、学年毎の劇に出演する奴らの練習量に比べて、私達悪ガキ組が毎年割り振られる合唱というのは、本番直前に数回の声合わせだけだったので、その意味では楽だったが、私は合唱団にも所属していた事から、そっちにも出演する関係上、出番がひとつ多かった。

 だいたい学芸会の合唱というのは、劇やダンス、合奏やバレー、舞踊、ピアノやヴァイオリンなどの演奏やその他の個人出演に該当しなかった、文字通りその他多勢をひとまとめにして出演させるとしか思えない程、差別観の強い演目だった気がする。

 だから、学芸会の出演種目が発表される時、「今までに名前を呼ばれなかった者の出演種目は合唱だからな」と先生から言われた瞬間、既に合唱以外の出演が決った奴から、(ヘン)という馬鹿にしたような視線が、一斉にぶつけられるのには本当に参った。

 結局のところ、良い子は演目に出られるし、悪い子は悪い演目にしか出られないという事なのだ。

 そんな訳だから4年以上の学年の合唱は、ただ出て歌うというだけで、ロクな練習もしていないから、やたらに大きな声でがなり立てたり、地声で妙なこぶしを聞かせたりと、結構個性的で面白かった。

 合唱は各クラス毎に一組作られるから、何の事はない、皆が関心を持っている劇などの合間を埋めるために、プログラムを埋めているようなものだった。

 だから、その他多勢が出演する合唱など、生徒はおろか先生方だって聞いたふりをしているだけで、実際は次の演目に出演する連中の引率や指導に夢中で、ほとんど上の空だったのだ。

 かと言って、合唱に出る連中が、その事を気にしていたかと思えば、そんなのは全く無かったのも不思議で、逆にあまり練習をしないで済む事を、むしろ喜んでいたと思う。http://www.atelierhakubi.com/


著者: 水上 陽一
タイトル: オペラ制作



著者: 城野 賢一, 城野 清子
タイトル: アラビアン・ナイト―羊かいの娘とえんとつそうじやさん、さるかに、むかしばなし



著者: NoData
タイトル: いつでも使える楽しい脚本集―学芸会・学年・学級集会に役立つ

アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/170215

 【晴】
 2月も中旬近くになると、正月の餅が残っている家は、もうほとんどないのだが、我が家にはまだリンゴ箱に山盛りいっぱいはあったろうか。

 餅の表面には、白や青、少し赤っぽい色などのカビがビッシリとついているので、私や姉達は、台所の床に敷いた新聞紙の上で、包丁を使ってカビを落とす仕事をよくやらされたものだった。

 カビを落とした餅は、そのあと水に漬けて表面を洗ってから焼くのだが、やっぱり少しカビ臭いにおいがした。

 だから最後には細かく割ったものを油で揚げて、塩をまぶしたあられにして食べたのだが、これが意外に美味かった。

「今日は残った餅をあられにしようかね」

 母が女の人達を指図して作るあられの量は、大きなザマに二杯ほどあったので、皆が気ままに食べた上に、お客へのお茶菓子に出しても、なかなか無くならなかった。

 私は学校から帰ると、片手にあられ、もう片方の手に煮干を持ち、それを交互に食べるのが好きで、結構小腹が満たされた。

 しかし、どういう訳か私が煮干をかじっているのを見付かると「生のまま食べちゃ駄目、虫がわくよ」と、母に叱られた。

 まさか煮干を食べて虫がわくとも思えなかったが、そんな事を言われるせいか、時々腹が痛くなって困ったものだった。

 あんなに沢山あったあられが、そろそろ底をついて来る頃になると、いつの間にか足元には春の気配が漂いはじめ、間もなく雛祭の季節がやって来る。

 毎日のように吹いていた赤城颪も、少しづつ勢いをなくし、気がつくと向きの変わった風が、ぬるみと香りを運んで来る時を迎えるのだ。http://www.atelierhakubi.com/


著者: 安井 健治
タイトル: 和菓子で楽しむ東京散歩―大福、もなか、どら焼き…なごみお菓子で江戸あるき



著者: 松井 ミチル
タイトル: ほんのひと口、しあわせ和菓子



著者: 金塚 晴子
タイトル: ほーむめいど和菓子

アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/170214

 【晴】《13日の続き》
 あたりが薄暗くなり、職人達も引き上げて、人っ子一人いない河原にポツンと残された私は、とうとう諦めて家に戻る道をトボトボと引き上げるしかなかった。

 いったいチビ達はどこに行ってしまったのだろうか。

 もしやと思い、フジの小屋の中や、チビ達がいつも遊んでいた倉庫の中を覗いて見たけれど、やはりどこにも姿がなかった。

 子供がいなくなったのに、当の親のフジは全く平気な顔をして、私と目が合うと、のんびり尻尾を振っている。

 それが少し面白くなかったので「フジよ、お前は自分の子がいなくなったというのに、悲しくねえんかよ。冷てえ親だ」と文句を言っても、フジは私の手をペロペロと舐めたり、小屋の壁にパタパタと尻尾を打ちつけているばかりだった。

 別に鎖で繋いである訳ではないので、小屋に入っているのが飽きたフジは、ノロノロと小屋を出て母屋の方に歩いて行った。

 フジが仔を産んだ時はいつもそうなのだが、最初は毎日がとても楽しみで、その内一匹一匹といなくなる毎に悲しくなって、最後にみんないなくなると、そのあとの一週間位は本当に気が抜けてしまい、チビ達がいない生活に慣れるのが大変だった。

 そんな事を、もう5回以上は繰り返したのに、今度もまた淋しい日が少し続く。

 最初のチビ達は、結構近所に貰われて行ったから、時々遊びに行けるのでいいのだけれど、あとの奴らは皆遠くに貰われて行く事になり、その先に会いに行く事は出来ない。

 そしてフジも、館林の知り合いに貰われて行き、次にゴールという名のシェパードが来るまで、我が家には犬がいなかった。http://www.atelierhakubi.com/


著者: グレン ドロムグール, Glenn Dromgoole, 井上 篤夫
タイトル: いぬのちえ



著者: 渡辺 真子
タイトル: 捨て犬を救う街



著者: 児玉 小枝
タイトル: どうぶつたちへのレクイエム

アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/170213

 【晴】
 学校から帰り、いつものようにフジの小屋の前に行き、まだ三匹残っていた小犬達を引っ張り出そうとしたら、どこにも姿が見えないのに驚いて、私は慌てて庭で仕事をしている父のもとに走った。

「ネエ、チビ達はどこに行ったの?」

「あ〃、知らない人が来て連れて行った」

 私はそれを聞いたとたん、なぜか(嘘だ)と思った。

 これまでにフジは何度も仔を産んでおり、その度に貰い手を探すのに苦労していた父を知っていたから、今度の仔達の中で、なかなか行く先の決らない三匹を持て余して、多分河原あたりに捨ててしまったのかもしれない。

 そう考えると、私は矢も楯もたまらずに河原に向かった。

 我が家が染めた原毛を乾燥するために借りている場所まで行ってみると、職人達が数人働いていた。

「オオッ晃ちゃん手伝いに来たか」

「ちがうよ、チビ達を探しに来たんだよ。今日誰かチビ達をここに捨てに来なかった?」

「いいや知んねえな。どした、いねえのか?」

「ウン、もしかして捨てられたのかもしれないよ」

「まさか、おとっつぁんがチビ共を捨てるとは思えねえし。そうか、チビ達いなくなったか」

 私はそれでもあたりの薮の中を夕方まで探し回った。

 まだ名前をつけていなかったので名を呼ぶ訳にもゆかず、ただ「オーイ、オーイ」と叫びながら見渡す限りをうろつくばかりだった。http://www.atelierhakubi.com/


著者: ごとう やすゆき
タイトル: ダメ犬グー―11年+108日の物語



著者: 石黒 謙吾, 秋元 良平
タイトル: 盲導犬クイールの一生



著者: ガブリエル バンサン
タイトル: アンジュール―ある犬の物語

アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/170212

 【晴】《11日の続き》
 拝殿からの灯を受けて、我が家の一升枡は渡り廊下に長い影を作って、ポツンと淋しそうに置かれているのを見ると、突然ひとりぼっちにされた犬が、心細そうに飼い主を待っているようで、私は何だか一升枡が可哀想になってしまった。

「誰だよ、ひとんちの物をこんなところに置きっぱなしにして。大体おめえらは何やってもいい加減なんだよ」

 私はしょんぼりしている仲間に、思わず小言を言ってしまった。

「悪かったよ、ごめんな」

 皆が口を揃えて謝るのを聞いている内に、何だか気が抜けてしまい、「あ~あ、もうけえるかな。俺はもうくたびれちまった」と言うと、他の連中も、「そうだな、俺も腹へって飯食いてえよ」とか、「俺ぁ寒くって仕様がねえよ。早く家へ帰るんべ」とか、結局全員揃って帰る事になった。

 神社を出ると、目の前を鎧行列が通り掛っていた。

 その当時は、まだ鎧の全てが古いままで修繕もしていなかったので、薄暗い外燈の下をガシャガシャと音を発てて行く姿は、まるで戦国の世の武者達の亡霊を見るようで、勇壮というよりも、むしろ怖い感じがして、まわりに人が沢山いたから大丈夫だったが、もし私一人だったら、到底この場に立ってはいられなかったろう。

 列の前後からヴォーというホラ貝の音が響き、黒々とした流れは、いつ止むとなく続いていた。http://www.atelierhakubi.com/


著者: 藤本 正行
タイトル: 信長の戦争―『信長公記』に見る戦国軍事学



著者: 川口 素生
タイトル: 戦国時代なるほど事典―合戦・武具・城の真実から武将・庶民の生活事情まで



著者: 山本 兼一
タイトル: 戦国秘録 白鷹伝

アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/170211

 【晴】《10日の続き》
 5丁目の八雲神社を出ると、通りには鎧行列を見物する人達が、両側に人垣を作っていた。

「どうする?ここで観るか?」

 ヤッさんが言うと、「イヤ、大日様に行くべえよ。行列が太鼓橋を渡るところは、まるで映画観てるみてえで面白えぜ」

 宮内がそう言ったので、私達は最初の予定通り、人垣の外側を抜けて織姫神社の前に出ると、ヘビ屋通りを大日様に向かって歩いた。

「ウウさみいな。早く行くべえよ。大日様の境内で焚火してるから早くあるるべえよ」

 田中がブルブル震えながら言うのを聞いて、みんなも急に寒さが身に染みて、「行くべ、急いで行くべ。寒くって寒くってもう死んじまいそうだ」と、半分叫ぶようにはやしたてながら、夜の道をばらばらと走って行った。

「あれっ、枡は誰が持ってるんだ?」

 私は枡を手にしていない事を思い出し、皆に尋ねると、「知んね」、「俺も知んね」と無責任な答えが返って来た。

 私はカンカンに怒って、「バカヤロ、誰でもいいから引っ返して枡取って来い。もし無くしてみろ、おめえら全部ぶちのめすぞ」と、皆を怒鳴り散らした。

 結局全員が引き返して枡を探す事になり、とぼとぼと来た道を戻り、神社の拝殿まで来ると、誰が最後だったか分からないが、我が家の枡が渡り廊下の上に乗っていた。http://www.atelierhakubi.com/



タイトル: シングルV 「渡良瀬橋」



著者: 伊沢 昭二
タイトル: 図説・戦国甲冑集―決定版



著者: 三浦 権利
タイトル: 図説 西洋甲胄武器事典

アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/170210

 【晴】《9日の続き》
 節分の夜は、どこの辻を行っても、一升枡を持って豆まきをする人や、間もなく始まる鎧行列を見物するため、大通りに出る人達が沢山歩いていた。

 足元から這い上がって来る恐ろしく冷たいものを、いつもと違う華やいだこの夜の気分を壊す事は出来ない。

 着ぶくれに加えて首にぐるぐると巻いたマフラーで、皆の姿は豆タンクのようで面白い。

「オイ、鎧行列は何時からだ」

 長谷川が宮内に聞いた。

「多分8時からだ。今頃は西校の校庭に集合してるんじゃねえか」

 以前は緑町の八雲神社が起点だったが、最近は西校から出発するらしい。

 私はここ数年鎧行列を見物していなかったので、今夜は久し振りに通りに出るか、鑁阿寺まで足をのばしてみようかと思った。

「豆まき終わったら、鑁阿寺まで行くか」と皆に声を掛けると、「ウン、行くべ、行くべ」という事になった。

 5丁目の八雲神社は街の中にあるせいか、緑町の八雲神社に比べるとかなり狭い。

 いつもなら、こんな時刻の境内は墨を流したように真っ暗だから、とても入って行く事など出来ないが、今夜は大勢の人達が出入りしていて賑やかなものだった。

 皆は先を争って一升枡を持ち、「鬼は外福は内」を大声で叫びながら、やけくそのように豆まきをした。http://www.atelierhakubi.com/


著者: NoData
タイトル: 古寺をゆく 境内地図 京都・奈良編



著者: 伊藤 正敏
タイトル: 中世の寺社勢力と境内都市



アーティスト: 松浦亜弥, 森高千里, 馬飼野康二, つんく, 平田祥一郎
タイトル: 渡良瀬橋



アーティスト: 森高千里, 斉藤英夫
タイトル: 渡良瀬橋/ライター志望



アーティスト: 城之内早苗
タイトル: 酔わせてよ今夜だけ/渡良瀬橋