アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/170215 | アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草

アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/170215

 【晴】
 2月も中旬近くになると、正月の餅が残っている家は、もうほとんどないのだが、我が家にはまだリンゴ箱に山盛りいっぱいはあったろうか。

 餅の表面には、白や青、少し赤っぽい色などのカビがビッシリとついているので、私や姉達は、台所の床に敷いた新聞紙の上で、包丁を使ってカビを落とす仕事をよくやらされたものだった。

 カビを落とした餅は、そのあと水に漬けて表面を洗ってから焼くのだが、やっぱり少しカビ臭いにおいがした。

 だから最後には細かく割ったものを油で揚げて、塩をまぶしたあられにして食べたのだが、これが意外に美味かった。

「今日は残った餅をあられにしようかね」

 母が女の人達を指図して作るあられの量は、大きなザマに二杯ほどあったので、皆が気ままに食べた上に、お客へのお茶菓子に出しても、なかなか無くならなかった。

 私は学校から帰ると、片手にあられ、もう片方の手に煮干を持ち、それを交互に食べるのが好きで、結構小腹が満たされた。

 しかし、どういう訳か私が煮干をかじっているのを見付かると「生のまま食べちゃ駄目、虫がわくよ」と、母に叱られた。

 まさか煮干を食べて虫がわくとも思えなかったが、そんな事を言われるせいか、時々腹が痛くなって困ったものだった。

 あんなに沢山あったあられが、そろそろ底をついて来る頃になると、いつの間にか足元には春の気配が漂いはじめ、間もなく雛祭の季節がやって来る。

 毎日のように吹いていた赤城颪も、少しづつ勢いをなくし、気がつくと向きの変わった風が、ぬるみと香りを運んで来る時を迎えるのだ。http://www.atelierhakubi.com/


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