アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/170213 | アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草

アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/170213

 【晴】
 学校から帰り、いつものようにフジの小屋の前に行き、まだ三匹残っていた小犬達を引っ張り出そうとしたら、どこにも姿が見えないのに驚いて、私は慌てて庭で仕事をしている父のもとに走った。

「ネエ、チビ達はどこに行ったの?」

「あ〃、知らない人が来て連れて行った」

 私はそれを聞いたとたん、なぜか(嘘だ)と思った。

 これまでにフジは何度も仔を産んでおり、その度に貰い手を探すのに苦労していた父を知っていたから、今度の仔達の中で、なかなか行く先の決らない三匹を持て余して、多分河原あたりに捨ててしまったのかもしれない。

 そう考えると、私は矢も楯もたまらずに河原に向かった。

 我が家が染めた原毛を乾燥するために借りている場所まで行ってみると、職人達が数人働いていた。

「オオッ晃ちゃん手伝いに来たか」

「ちがうよ、チビ達を探しに来たんだよ。今日誰かチビ達をここに捨てに来なかった?」

「いいや知んねえな。どした、いねえのか?」

「ウン、もしかして捨てられたのかもしれないよ」

「まさか、おとっつぁんがチビ共を捨てるとは思えねえし。そうか、チビ達いなくなったか」

 私はそれでもあたりの薮の中を夕方まで探し回った。

 まだ名前をつけていなかったので名を呼ぶ訳にもゆかず、ただ「オーイ、オーイ」と叫びながら見渡す限りをうろつくばかりだった。http://www.atelierhakubi.com/


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