アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/170308
【晴】
その日の石黒先生の話は、海野重三の「四次元漂流」だった。
たまたま私も「夢乃屋」の貸本で読んだばかりだったから、思わず「知ってる知ってる」と叫んでしまった。
「ホー、渡辺お前読んだ事あるのか」と、先生は嬉しそうに言うと、「空想科学小説を決して馬鹿にしてはいけないぞ。先生の中にはそういった物を嫌う人もいるが、人間にとって想像力というものは、他の何よりも大切な力かもしれないんだぞ」と、一人一人に問いかけるように話してくれた。
我が家では父も母も、私が教科書以外の書物を読む事を、まるで悪い事をしているかのように嫌ったから、石黒先生と我が家の親との違いに、正直驚いてしまった。
その頃、四次元とか超空間とかいう物について、言葉さえ知らないのが普通だったから、超高速航法(ワープ航法)や、時間旅行などという事柄は、全く話題にさえならなかった。
そんな話をうっかりすれば、直ぐに変わり者扱いされただけではなく、大抵は大ボラ吹きの烙印を押されてしまうのがオチだったのだ。
しかし先生自らが、大ボラと言われる話を聞かせてくれた事から、私が同じような話題を口にしても、あまり悪く言われなくなったのはありがたかった。
あの頃は、子供でさえ現実的な発想が正常な人間の条件だと思っていた感があった。
ただ、それだけに大人も子供も、皆素直で真面目な人が多かったと思う。http://www.atelierhakubi.com/
- 著者: ロバート・A・ハインライン, 福島 正実
- タイトル: 夏への扉
- 著者: ジェイムズ・P・ホーガン, 池 央耿
- タイトル: 星を継ぐもの
- 著者: J.K. ローリング , 松岡 佑子, J.K. Rowling
- タイトル: ハリー・ポッターとアズカバンの囚人 (3)