アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/170228
【晴】《27日の続き》
「ボク、こんなものでも面白いかい」
おじさんは、愉快そうに笑いながら声を掛けて来た。
「ウン」
板橋と私は同時に返事をすると、またおじさんの手先に視線を戻した。
「ハハハッ、そうかいそうかい、そんなに面白いんなら、いつでも見においで。そうだ、学校下ったらおじさんの弟子になるか。いいぞ職人は。昔から手に職っていって、いったん身につけさえすれば、もう食いっぱぐれがないからな」
私はおじさんの話を聞きながら、(似たような話、どこかで聞いたな)と思った。
緑町界隈には沢山の職人さんがいたし、仕事の種類も相当に多かったから、きっと耳に慣れたセリフだったのだろう。
マキ引きと両刃は、結構早目に目立てが終わったが、銅付きにはそれまでの倍以上の時間がかかった。
ヤットコで刃並びを揃えたり、今度は逆に金床の上で刃を叩いたり、ヤスリの使い方も、それまでとは全く違って、ゆっくりと少しづつ、とても丁寧だった。
やっと納得がいったのか、おじさんは「ヨシッ」と大きくうなずくと、何かの油を湿した布で、ノコギリを一本一本丁寧に拭い、「危ないから包んであげるよ」と、新聞紙で包んで渡してくれた。
「勘定はつけといて下さいって」
「ハイヨッ、まいどどうもね。気をつけて帰るんだよ」
おじさんの声に送られて、板橋と私は店を出ると、表通りを横切って露地に入り、福田の辻に出て左に折れ、三井屋の脇から公園通りに出て帰宅した。
「板橋、家に帰るの遅くなって怒られないか?」
「大丈夫だよ。帰りに渡辺の家に寄ったって言えば平気」
「そうか、んじゃあ公園抜けて行こう。途中まで送るから」
「ウン」
父にノコギリを渡すと、私は板橋を送るために公園に入って行った。http://www.atelierhakubi.com/
著者: 小関 智弘
タイトル: 職人学
著者: 佐江 衆一
タイトル: 続・江戸職人綺譚
著者: 佐藤 隆介
タイトル: うまいもの職人帖
「ボク、こんなものでも面白いかい」
おじさんは、愉快そうに笑いながら声を掛けて来た。
「ウン」
板橋と私は同時に返事をすると、またおじさんの手先に視線を戻した。
「ハハハッ、そうかいそうかい、そんなに面白いんなら、いつでも見においで。そうだ、学校下ったらおじさんの弟子になるか。いいぞ職人は。昔から手に職っていって、いったん身につけさえすれば、もう食いっぱぐれがないからな」
私はおじさんの話を聞きながら、(似たような話、どこかで聞いたな)と思った。
緑町界隈には沢山の職人さんがいたし、仕事の種類も相当に多かったから、きっと耳に慣れたセリフだったのだろう。
マキ引きと両刃は、結構早目に目立てが終わったが、銅付きにはそれまでの倍以上の時間がかかった。
ヤットコで刃並びを揃えたり、今度は逆に金床の上で刃を叩いたり、ヤスリの使い方も、それまでとは全く違って、ゆっくりと少しづつ、とても丁寧だった。
やっと納得がいったのか、おじさんは「ヨシッ」と大きくうなずくと、何かの油を湿した布で、ノコギリを一本一本丁寧に拭い、「危ないから包んであげるよ」と、新聞紙で包んで渡してくれた。
「勘定はつけといて下さいって」
「ハイヨッ、まいどどうもね。気をつけて帰るんだよ」
おじさんの声に送られて、板橋と私は店を出ると、表通りを横切って露地に入り、福田の辻に出て左に折れ、三井屋の脇から公園通りに出て帰宅した。
「板橋、家に帰るの遅くなって怒られないか?」
「大丈夫だよ。帰りに渡辺の家に寄ったって言えば平気」
「そうか、んじゃあ公園抜けて行こう。途中まで送るから」
「ウン」
父にノコギリを渡すと、私は板橋を送るために公園に入って行った。http://www.atelierhakubi.com/
著者: 小関 智弘
タイトル: 職人学
著者: 佐江 衆一
タイトル: 続・江戸職人綺譚
著者: 佐藤 隆介
タイトル: うまいもの職人帖