アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/170224 | アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草

アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/170224

 【晴】《23日の続き》
 少し寒くなって来たので、私も平野のおばさんの店に入った。

 おばさんは母の友達だったので、いつも何を頼んでも、他の奴より少し量を多くしてくれるのが嬉しかった。

「おばさんヤキソバ」

「ハイヨ、さっきから晃ちゃんが境内にいるのが見えていたけど、わざわざあんな所で、ヤキソバなんか買わなきゃいいのにと思ってたんだよ。祭の店は高いし美味くないし、第一汚いよ」

 おばさんは私の顔を見るなり言った。

「大丈夫買わないよ。来る時に母さんが、どうせ何かを買うのなら、平野さんちで買いなさいって言ってたから、そのつもりでいたんだよ」

「そうかいそうかい、お母さんそう言ってたかい。やっぱりあんたのお母さんは偉いよ」

 私には何がそんなに偉いのかよく分からなかったが、余計な事を言うとロクな目には会わないのを知っていたから、黙っておばさんのヘラをさばく手元を見ていた。

 座敷には三台のもんじゃき台があったが、どれも塞がっていて、順番待ちをしているのか、何人かの見知った女の子達が、上がり框に腰を掛けて足をブラブラさせている。

「おばさんポテトも少し入れてね」と私が言うと、「分かってるよ大丈夫まかしておきな」と振り返った肩越しに答えた。

 (あ〃、多分オマケしてくれるんだな)と思うと、私は何だかとても嬉しくなって、思わずニヤニヤしてしまった。

「晃ちゃん、何ニヤニヤしてるん、気持ち悪い」
そばにいた前原さんが、私の肩を突付いて毒づいた。

「うっせえな、人が何しようと勝手じゃねえかよ」

「あっそう、いいのよいいのよほっといて、あなたがニヤニヤ笑うのも、私がそれを恐がるのも、みんな私が悪いから」

 前原さんは妙なセリフを吐くと、キャッキャッ笑い転げながら、仲間の所に戻って行った。

 私は(あああ、明日また学校で皆に告げ口するんだろうな)と思って、おばさんの店に入ったのを、少し後悔した。http://www.atelierhakubi.com/


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