アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/170206 | アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草

アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/170206

 【晴】《5日の続き》
 埋葬前の儀式が終わると、おじいちゃんの棺は親しい人達に担がれて本堂を出て、風花まじりの寒風の中を墓地に向かった。

 大きくて広い墓地の片隅に掘られた長方形の穴は、思ったよりもずっと深いのに驚いた。

「コレッ、あんまりじろじろ中を覗くんじゃないよ」

 私はまたおばさんに叱られ、すごすごと人垣の外に出ると、埋葬の様子がよく見えるように、一段上にある墓地に入り、そこの囲いの上に乗った。

 おじいちゃんの棺は、あっけない程の早さで穴の中に納められ、あっという間に土がかぶせられていく。

 埋葬の儀式は淡々と進行し、そして終わった。

 帰路は追い風に乗って楽々と道を行き、道すがらの会話は、少し前に故人を埋葬して来たとは思えない程、明るく楽しそうだった。

 みんな大きな方の荷を下ろしたような表情の中に、近しい人に先立たれた悲しさを隠しているようだった。

「ボク、小さいのにこの風の中を大変だったな」

 見知らぬおじさんが私に声を掛けて来たが、役目を終えてホッとした気分を、そんな形で表したかったのが、私にもよく分かった。

 私は何も言わず、ただ笑顔でおじさんに答えると、おばさんに握られ、汗ばんだ手を振り解いた。

「もう一人で歩けるよ」

 私はおばさんにそう言うと、列の先頭に向かって走った。

 行きはともかく、帰りだけは先頭に立って、おじいちゃんの行列を家まで先導したかったのだ。

「おばあちゃん行って来たよ。おじいちゃんは無事に行ったよ」

「そうかいそうかい、おじいさんも晃ちゃんに送ってもらって、本当に喜んでいると思うよ。ありがとうね」

 私は大切な約束を果したような満足感を胸に、心づくしの膳の前に座った。http://www.atelierhakubi.com/


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