アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/170205 | アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草

アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/170205

 【晴】《4日の続き》
 近付いてみると、山門は意外に小さく、僅か数段の石段で前の街道と繋がっていた。

 私はもっと高く上らなければならないのかと思っていたので、内心ホッとしたのだった。

 葬列は山門をくぐり、やがて先頭が本堂に着いたが、私はまだ山門の外にいた。

 寒さで冷え切っていた私は、早く本堂に入りたかったから、なかなか進まない列がもどかしくて、おばさんの脇で地団駄を踏んでいた。

「コレッ、お弔いでお寺に入った時に地団駄を踏むと、亡者に集られるよ」

 おばさんは小さな声で私をたしなめると、私の手を取って列から離れ、立ち並ぶ人達を追い抜いて本堂に急いだ。

「すみません、小さい子がいるので一足先に中に入ります」

 おばさんは列の人達を追い抜く度に声を掛け、私を本堂の中に連れて行った。

 本堂の中は、外に較べるとまるで春のように暖かかったが、特別に暖房がある訳ではなく、大きな火鉢が二つほど置いてあるだけだった。

 おばさんは私を火鉢のひとつの前に連れて行き、「ここでしばらく暖まっておいで。風邪でもひいたら大変だからね」

 私は「ウン」と返事をすると、真っ赤におきている炭火の上に手を翳して、ホッと一息ついた。

 火鉢の周りには、炭が燃える時に出す、少しいがらっぽい臭いが漂って、そこだけ小さな春を作っていた。http://www.atelierhakubi.com/


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