アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/170204 | アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草

アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/170204

 【晴】《3日の続き》
 寺に続く沢谷の右は、杉の巨木が道にのしかかるようにそそり立ち、左は狭い耕地になっていて、少し芽吹き始めた梅の林が、畑の奥から山裾まで続いていた。

 西風は沢谷に入ってから激しさを増して、大人の影に隠れていないと、子供の私は前にも進めない程だった。

 強風の巻き上げる砂塵が、容赦なく目潰しとなって目もあけていられない。

 上州から野州にかけての冬は、どこに隠れても身を凍らせる赤城颪から逃げられないのだ。

 そんな冬枯れの中を、葬列は野を分けるかのように、ほとんど真っ直ぐな坂道を、あえぎあえぎ進む。

 私は列のうしろの方で、柿沼のおばさんに手を取られながら、身も心も冷気に打ちひしがれながら、のろのろとついて行った。

「がんばって、ほら、もうすぐに寺だからね」

 おばさんは自分も辛かったのだろうが、私を優しく励ましてくれた。

 しばらく行くと、前方の斜面の中腹に寺の山門が古木の間から、黒々とした屋根を覗かせているのが見えた。

 あの門をくぐると、おじいちゃんは今までとは違う別世界の住人になってしまうのかと、私は何か得体の知れない恐怖を感じて、思わずおばさんにしがみついてしまった。

「あれ、どうしたんだろう。ここまで来て怖くなっちまったのかね。大丈夫、みんなが守ってくれるし、おじいちゃんだって、あんなに晃ちゃんを可愛がってくれたんだから、きっと守ってくれるから」

 私の心を察したおばさんが、一生懸命に力づけてくれた。http://www.atelierhakubi.com/


著者: 片山 満秋
タイトル: 野山の花をたずねて 赤城山編



著者: 安原 修次
タイトル: 赤城山の花



著者: 五十嵐 誠祐, 柳井 久雄
タイトル: 赤城山の文学碑



著者: 都丸 十九一
タイトル: 赤城山民俗記