アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/170203 | アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草

アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/170203

 【晴】《2日の続き》
 私がなかなか列に戻らないのを心配してか、最後尾にいる柿沼のおばさんが立ち止り、小手を翳してこっちを見ているのが、道を急ぐ私の目に入った。

 きっと母から私の事を頼まれているのだろう。

 私はおばさんに心配かけまいと、道を外れて田を横切りながら、こっちを見ているおばさんに手を振った。

 おばさんも手を振り返して答え、私が追いつくまで待つつもりなのか、じっとその場に留まっている。

「おばさあん、ごめんよ、もう少し待ってて。直ぐ追いつくから」

「大丈夫、慌てずにゆっくり来な。転んでケガでもすると大変だよ」

「わかった、ゆっくり行く」と答えた矢先に、私はもんどり打って枯れた用水路に落っこちてしまった。

 幸いな事にどこもケガはなかったが、着ていた服は泥まみれになり、ようやく用水路から這い上がった私の所に駆け付けて来た。
おばさんが「あれまあ、だから言っただろうに。そんなに汚れちゃって、いったいお母さんに何て言えばいいんだろう、まったくもう」

 おばさんは盛んに小言を言いながらも、私の服についた土を両手でパタパタと落としてくれた。

「さあ急ごう。まごまごしてると列が寺に着いちまうよ」

 おばさんと私は小走りで道を急ぎ、ようやく葬列の最後尾に追いつく事が出来た。

 もし追いつけなかったら、おじいちゃんに申し訳がないと思っていたので、私は心底ホッとして列について行った。

 葬列はやがて左手の谷に続く道に入り、少し上りのだらだら坂を、のろのろと進んで行った。http://www.atelierhakubi.com/


著者: 向田 邦子
タイトル: だらだら坂,大根の月



著者: 藤木 あきこ
タイトル: だらだら坂のとらんたん