アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/161113 | アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草

アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/161113

 【晴、午後西の風】《12日の続き》
 ギンナンの実から種を外し、よく洗って天日で乾かしてから、大きな蓋付きの缶に入れて保存した。

 私は時々缶の中から何粒かを取り出して、火鉢の練炭の穴の上に乗せて焼いた。

 そのまま焼くとパチンと跳ね飛ぶから、その前に軽く噛んでカラを割っておく。

 その時失敗すると口の中に生っぽいでんぷん味が広がって、思わずぺッとツバを吐き出したくなるが、そんな事をするとたちまち大目玉を食らうので、全部噛み終わるまで我慢しなければならない。

 ギンナンの実は練炭の強い火で直ぐに焼けた。

 指と歯を使ってカラを取ると、中から半透明の緑の美しい玉が出て来る。

 口に入れると濃厚な味と香りがいっぱいに広がって、何だか幸せな気分になったものだ。

 住み込みの人の中には、風邪をひいた時など玄関の土間に吊り下がっているニンニクの皮をむいて、練炭で焼いて食べたりしたが、私にはとても食べられなかった。
その代り、茶箪笥の引き出しにいつも入っていたスルメは、口が淋しい時などはよく焼いて食べた。
少し腹が空いていると、形が木の葉のような海苔餅や、こちこちになった鏡餅の欠片を焼いた。
そんなものが、茶箪笥の引き出しや戸袋の中には、ほとんど一年中しまってあったのだ。

 正月の餅は2月の中旬くらいまで食べられるだけの量をついたし、彼岸や法事の墓参に持って行く団子は大抵余分に作ったから、醤油をつけて火鉢で焼き、みたらし団子にして食べた。

 十五夜と十三夜の団子は、翌日まだ少し柔らかい内に薄く切って、醤油だけを付け焼きにしたものと、砂糖を入れて甘辛のタレを付けたものも作った。

 それだけではなく、火鉢の上にはよく煮物の鍋が乗っていて、一日中コトコトと良い匂いを家中に流していた。

 秋も深まると、そんな頃の情景が、豊かな色と香りと共に想い出される。http://www.atelierhakubi.com/