アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/161114
【曇】
学校からの帰り道に、7丁目のオモチャ屋の店先を冷やかしていると、いつものように店のオバさんとせがれが出て来て、意地悪そうな目付きで「オモチャに触るんじゃないよ」とか、「買わないんならサッサと行きな」とか、相変わらずの嫌がらせを始めた。
オモチャ屋というのは子供がお客さんなのに、この店の人達はなんでこんなに子供を嫌がるのだろうと、私は不思議でならなかった。
子供嫌いがオモチャ屋をやっていても仕方がないだろうにと思うし、第一子供にとっては迷惑な話だった。
それでも我が家のオモチャや、私が自分の小遣いで買ったものは、大抵その店のものなのだ。
親が一緒の時には、まるで別人のように態度が変わって、私は子供ながら、世の中には嫌な性格の人間もいるものだと、つくづく思った。
ある日、そのオモチャ屋の店先にあったゴム製のクモのオモチャと同じ品物を、大日様のお祭りの帰りに寄った高島屋で見付け、値段が件の店の半値以下だったので直ぐに買って持ち帰った。
別に人をおどかすつもりはなかったのだが、北側の縁側のガラス戸の表に、オモチャのクモの腹に付いている吸盤を舌で舐めてから、ギュッと押し付けて止めた。
そこはくもりガラスだったから、大人の手の平ほどの大きさのクモは、まるで本物が張り付いているようだった。
私は大満足で眺めていると、「ちょっとお使いに行って」と母が呼んだ。
直ぐに母の所に行き、言われたお使いをして家に戻ると、玄関先に人だかりがして騒がしい。
何だろうと思って家にあがると、母と隣の叔母が屁っ放り腰でホウキを構えている。
「どうしたの?」と聞くと、母と叔母は「あれっあれっ」とガラス戸を指差して叫んだ。
私は「なんだこれか」と言いながら、ガラス戸の表に回ってゴムのクモを外すと、それを母に見せた。
母も叔母も、最初は私が本物のクモを素手で掴んだと思ったらしく、および腰で手の中のクモを見ていたが、それがオモチャだと分かったとたん、持っていたホウキで物言わず私の頭を引っ叩いた。
「この子は本当に悪い子だ。どうしてこんな悪さばかりするんだろう。この悪ガキが」
叔母も一緒になってホウキを振り上げて追って来たので、私は言い訳をするヒマもなく、裸足で玄関から外に逃げ出した。
その間に2~3回ぶっとばされたがよく覚えていない。
その夜、空腹に耐えかねてそっと家に戻ると、母は何事もなかったように私を迎えてくれた。
私は遅い晩飯を掻っ込みながら、今日の事は怒られる筋合いはないのになと思った。http://www.atelierhakubi.com/
学校からの帰り道に、7丁目のオモチャ屋の店先を冷やかしていると、いつものように店のオバさんとせがれが出て来て、意地悪そうな目付きで「オモチャに触るんじゃないよ」とか、「買わないんならサッサと行きな」とか、相変わらずの嫌がらせを始めた。
オモチャ屋というのは子供がお客さんなのに、この店の人達はなんでこんなに子供を嫌がるのだろうと、私は不思議でならなかった。
子供嫌いがオモチャ屋をやっていても仕方がないだろうにと思うし、第一子供にとっては迷惑な話だった。
それでも我が家のオモチャや、私が自分の小遣いで買ったものは、大抵その店のものなのだ。
親が一緒の時には、まるで別人のように態度が変わって、私は子供ながら、世の中には嫌な性格の人間もいるものだと、つくづく思った。
ある日、そのオモチャ屋の店先にあったゴム製のクモのオモチャと同じ品物を、大日様のお祭りの帰りに寄った高島屋で見付け、値段が件の店の半値以下だったので直ぐに買って持ち帰った。
別に人をおどかすつもりはなかったのだが、北側の縁側のガラス戸の表に、オモチャのクモの腹に付いている吸盤を舌で舐めてから、ギュッと押し付けて止めた。
そこはくもりガラスだったから、大人の手の平ほどの大きさのクモは、まるで本物が張り付いているようだった。
私は大満足で眺めていると、「ちょっとお使いに行って」と母が呼んだ。
直ぐに母の所に行き、言われたお使いをして家に戻ると、玄関先に人だかりがして騒がしい。
何だろうと思って家にあがると、母と隣の叔母が屁っ放り腰でホウキを構えている。
「どうしたの?」と聞くと、母と叔母は「あれっあれっ」とガラス戸を指差して叫んだ。
私は「なんだこれか」と言いながら、ガラス戸の表に回ってゴムのクモを外すと、それを母に見せた。
母も叔母も、最初は私が本物のクモを素手で掴んだと思ったらしく、および腰で手の中のクモを見ていたが、それがオモチャだと分かったとたん、持っていたホウキで物言わず私の頭を引っ叩いた。
「この子は本当に悪い子だ。どうしてこんな悪さばかりするんだろう。この悪ガキが」
叔母も一緒になってホウキを振り上げて追って来たので、私は言い訳をするヒマもなく、裸足で玄関から外に逃げ出した。
その間に2~3回ぶっとばされたがよく覚えていない。
その夜、空腹に耐えかねてそっと家に戻ると、母は何事もなかったように私を迎えてくれた。
私は遅い晩飯を掻っ込みながら、今日の事は怒られる筋合いはないのになと思った。http://www.atelierhakubi.com/